テラノハ

言葉は涙だ。とベケットは言った。

おれを二度殺す『コンフィデンスマンJP』4話『映画マニア編』

(※コンフィデンスマンJP4話本編、『リーガルハイ』の小ネタ、『キサラギ』のあらすじに関するネタバレがあります)

最高の回だった。
ただ1点を除いて。

・『コンフィデンスマンJP』のあらすじ
詐欺師の話。ダー子(長澤まさみ)、ボクちゃん(東出昌大)、リチャード(小日向文世)の3人がターゲットからお金を巻き上げるが利益は出ない(出さない)話。

・4話のあらすじ
ターゲット:俵屋フーズという食品加工会社の社長。
助けられる人:俵屋フーズの工場長。
ハメ方:映画マニアの社長を映画に出資させる。

佐野史郎起用の凄さ
佐野史郎さんはホントすごい。さんとか付けるくらいすごい。小劇場俳優から『夢見るように眠りたい』という林海象監督の映画でスクリーンデビューして以来、日本映画に欠かせない俳優である(個人的には若松孝二作品の佐野さんが好きです。あと『夢見るように〜』は未見です、すいません)。
しかも佐野さん自身が大の映画好きである。尾道映画祭にわざわざ東京から来てくださるくらいに映画好きでいらっしゃる。
【学生時代に小劇場に出ていて、自主映画も撮ってた大の映画好き】という俵屋フーズ社長の役をやるのにこれほどハマる人はおらん。しかも佐野さんは特撮がお好きでひょっとすると《俵屋》という苗字も特撮の神様円谷英二ひいては円谷プロと響きが近いから採用されたのかもしれん。
その俵屋フーズが製造してるのが「うなぎのカレー煮」というありそうで絶対にない食品。このネーミングもおそらく今村昌平監督の『うなぎ』とインド映画っぽいもの→カレーという着想な気がする。
アテ書きじゃなかったら何かの事故だと思うくらいに佐野史郎という人間と役柄がリンクしている。オファーを出した製作陣もオファーを受けた佐野史郎さんも偉すぎる。しかもめっちゃ悪役なのに。ありがとう、フジテレビ。ありがとう、佐野史郎さん。

・映画ネタの多さ
古沢良太脚本は古沢さん自身の映画好きがモロに出ており、出世作『リーガルハイ』においても古美門(演じるのは堺雅人)にグレーのジャージで街中を走らせ、生卵をジョッキで飲ます『ロッキー』オマージュが登場する。この『ロッキー』は誰が見てもわかりやすいのでこの4話でもボクちゃんが脚本を徹夜で書くシーンで生卵ジョッキが引用された。
その他『リーガルハイ』に出たオマージュには『犬神家の一族』などがあるがこれについては長くなるので割愛とする。

4話は映画マニア古沢良太が書いた映画マニア殺しのドラマである。
冒頭から頻出する監督や役者の名前だけでも黒澤明深作欣二岡本喜八菅原文太勝新太郎三船敏郎(登場順は記憶からの引用なので適切ではない)と誰でも知ってる名優や名監督揃い。しかもこれをセリフの中にうまく混ぜ込む。
ダー子たちが作った映画人行きつけのカフェバー(もちろん釣るためのもの)のカウンターに俵屋社長が座るだけでも
「そこは深作さんが座った席です」
社長が驚いて席を横にどくと
「そこは文太さんの」
といった具合(セリフはいずれも記憶からの引用のため正誤は本編を確認してください)。

黒澤明に至っては彼自身が描く絵を俵屋社長が社長室に飾ってるという具合に出てくる(いかにも古風な映画マニアの社長という人を表すのに黒澤明の絵画を所有というのがうますぎる!!!!)。
そのあと社長が映画撮影時に絵コンテを描いてくるが、これがモロに黒澤明が描く水彩画に似てるし、たぶん『乱』のときの仲代達矢に寄せて描いていてニクい。美術さんありがとう。
(※なぜ黒澤明かと考えれば3話が絵画にまつわる話だったので絵を描く映画監督だからだろう。)

岡本喜八はボクちゃんが岡本監督の孫という設定で出てくる。これもさりげなくて上手い。かつてのおじいさんを慕うスタッフが集まってくれた、というのがいかにも騙すのにピッタリ。岡本喜八は喜八組と呼ばれる固定スタッフの多かった監督なのでうまい。
『用心棒大集合』という劇中で作ることになる架空の映画はもちろん黒澤明監督・三船敏郎主演の『用心棒』が元ネタか。
さらにいえば勝新座頭市を、三船敏郎が用心棒役を演じ、岡本喜八が監督した『座頭市と用心棒』というややこしいけどホントにある映画が元ネタかも知れん。
とにかくエッセンスの拾い方と混ぜ方がいちいち気が利いててグサグサくる。

他にも春日太一さんが『あかんやつら』で書いた東映京都撮影所あるあるみたいなものがなんとなく出てきてニクい。伊吹吾郎役が伊吹吾郎なのもニクい。『リーガルハイ』で里見浩太朗を使ったと思ったら、ここに来て伊吹吾郎。やめてくれ、その起用は刺さる〜〜。

わけても出色なのは一言も名前を出さずに長澤まさみにチャイナドレスを着させた李香蘭オマージュ。マギー・リンという架空の中国の女優を登場させるからチャイナドレスを着ただけ、という一面的な見方も出来るが、どうみても李香蘭である。ぜひ画像検索してほしい(そこに至るマリリン・モンローの映画は見たことないのでここに書けなくて悔しい。くぅぅ!)。


・古沢さんの弱点
終盤、ダー子演じるマギー・リンに出資者という立場でピロービジネス的なサムシングを迫るシーンがある。
ここのツイストに古沢さんは《ねらっていたのはボクちゃん》というネタをもってくる。(うわぁ…)と思った。
古沢さんは倫理観が僕と合わない。精確に言うと昔は面白く見れたのに僕が合わなくなった。合わなくなったことは成長でも進歩でもない。合わなくなった。それだけなのだ。それだけなのに見てしまうのはファンだからである。いやマニアだからである。

古沢脚本に『キサラギ』という映画がある。この映画はめちゃくちゃ面白い会話劇だ。だけど《アイドルの死》を発端にお話は始まり、アイドルは字義通りの偶像として最後まで正体は明かされない。明かされないことは作劇の作法なのだが、古沢さんは男4人の盛り上がりのために女の子を1人殺してしまう人なのだ。
そういう倫理観の人なので、《実は出資者が同性愛者》でした~~というのをツイストに使ってくる。
作劇の作法としては見事だし、ダー子が手籠めにされるよりはボクちゃんが困った顔になる方が”おもしろい”から別にいいのだ。
面白いのに僕はつらかった。
きっとなにかを踏みつけにした”おもしろい”は僕には今、荷が重い。それがたとえフィクションであっても。見なければ済む話だけどそこは言わずもがなでさぁねぇ。
古沢脚本はこれからもずっと好きだ。そこだけは自信がある。

白い巨塔(田宮版)が映る!
終盤、サブリミナル的に『白い巨塔』、しかも田宮版が劇中で五十嵐(小手伸也)が見ているテレビに映る。これは第5話が『スーパードクター編』だから、といってしまえばそれまでなのだが、映画になった『白い巨塔』は田宮版だからだと思った。唐沢版もあるにはあるが、ここはやはり田宮版でなくてはいけない。
フジテレビの医療ドラマは数々あるのに、わざわざ田宮版の手術シーンを見せるあたりがニクい。
分かってるな古沢!と『アオイホノオ』のホノオくんみたいな気持ちになる。偉そうにも。


他にも「生まれ変わっても脚本家にはなりたくない!」と劇中で脚本を書くボクちゃんに言わせるあたり、古沢さんの魂の叫びが現れてたり、脚本家古沢良太を語る上では欠かすことの出来ない回だった。
そもそも語られるテーマと見せられるドラマが一体となった入れ子構造がたまらなく好きなのでこの回は本当にいい回だった(映画でいうと『バードマン』とか『地獄でなぜ悪い』を思い出した)。

映画が好きならこの回だけでもぜひぜひ見てほしい。
愛読感謝いたします。