テラノハ

言葉は涙だ。とベケットは言った。

ことばを置き去りにする瞬間、『ブラックパンサー』『シェイプ・オブ・ウォーター』

昨日3月1日はとても面白い映画を2本も見てしまった。
ブラックパンサー』と『シェイプ・オブ・ウォーター』。
「わかる人にだけわかればいい」という言い方をする表現者はいるけどこの二作品の監督は人類すべてに向けてスカシや恥じらいなく自分の信じる物語を見せてくれたところが本当に誠実だと思ったし、すごく嬉しかった。
もちろん全人類に肯定される物語なんて存在しえないのだから、これがハマらなかったやつはつまらないというのは暴力だし(ぼくがマッドマックス怒りのデス・ロードにハマりすぎて見てないやつは友達じゃないといった話がある。そもそも友達がいなかった説もある。今は反省している)、ハマらないならハマらないでいいと思う。だけど力を持たぬ人や傷を持った人に寄り添い、決して傷を舐めたりせずに世界と対決する時に千の味方を得たような力強い表現になっているところがものすごく偉いし褒めたい。

ひとつ悔しいのは『ブラックパンサー』がアフリカにルーツを持つアメリカの人々に熱狂的に歓迎されている姿をTwitterなどで散見すると羨ましいなーと思ってしまうことだ。僕にはそこまでルーツに根ざした喜びはなかったから(それでもめちゃくちゃ面白かった)。
最近のハリウッドは白人強者男性一強主義を辞めて多様性を認めようとする潮流の中にあり、アカデミー賞という政治性の強い賞ではそこが強めに反映されている。『ムーンライト』や『スポットライト 世紀のスクープ』『それでも夜は明ける』が高く評価されたのは作品の出来の良さもあろうけど、昔では作れなかった題材だからだろうと思う。
『スポットライト』では少年たちだったけど『ムーンライト』や『それでも夜は明ける』はアフリカ系アメリカ人にまつわる、つまりは奴隷制や差別に関する映画である。(日本人が差別意識もなくとも黒人という時、失われてしまう互敬の念が怖くてアフリカ系アメリカ人と長くなるが表記する。)
最近だと『デトロイト』もそうだったけど、一言で言えばみてて気持ちのいい映画ではない。辛い作品である。アフリカ系アメリカ人=辛い作品みたいに簡便な方程式に押し込めて理解してしまっていたかもしれない。あるいはいわゆる「ラッキーニグロ(20180306追記これはマジカルニグロのことです。勘違い失礼しました。)」という陽気で主人公を助けてくれるだけのイメージも映画から受け取って抱いていたかもしれない。
だけど主人公は白人のハンサムにしか許されない特権ではない、そんな当たり前のことを改めて気づかせる強さが『ブラックパンサー』にはあった。
主人公はワカンダの次期国王であり、若さゆえの情熱と過ちもあるが、変革を希求する優しさがある。
めちゃくちゃかっこいいアフリカ系アメリカ人を『ブレイド』や『バッドボーイズ』や『イコライザー』で見ていたはずなのに、そのどれとも違うのはやはりアフリカへのルーツを大事にする『ブラックパンサー』の真摯さゆえかもしれない。「お前らの先祖は金を払ったのか?」というとことか。

作品のあらすじについてとやかくいうのは本当に野暮というか、今回のタイトルにもあるように言葉を置き去りにする瞬間が頻出する2作だった。こんだけ偏執的なブログをさんざん書いて開陳しておいてなんだけど、ぼくは言葉が置き去りにされるところを見たくて映画館に行くし、その置き去りにされた気持ちをどうにか写しとれないかと文章を書いている。だからこれを読んだ人は映画館にいってほしい。なんか面白い映画ないかなーと迷ってるならこの前書いた『スリービルボード』でもいいし。傷つきやすい自覚がある人は『シェイプオブウォーター』をすすめるし、デートになら『ブラックパンサー』だ。
いずれにしても世界に冠たる大企業ディズニーがその版図の及ぶ限り民衆を啓蒙しようとするかのような傑作『ブラックパンサー』は見ることになるでしょ、知らんけど。

『シェイプオブウォーター』はギレルモ・デル・トロというメキシコの傷つきやすくも冒険心豊かな1人の男の子が、おとぎ話に受けた恩を全力で返しに来た傑作だと思う。
どこかで見たことある物語といえばそれまでなんだけど、『美女と野獣』や『E.T』では出来なかったことが出来ている上に、デルトロが接してきたおとぎ話すべての良いところをすくい上げる作品だから似ているのは当たり前のことだし、大事なことだから何回でも言ってほしい。
なにより語り口が優しい。緑を基調とした色味も、旋律の柔らかな音楽も。一応の悪役もいるけれど、その悪役にも感情移入できるし、なにかが違えばこの人も救えたのでは?と思う。 怖いのは【こうあるべき】という狭量な思い込みで、それに染まっていられるうちは安心できてたものがそこからはみ出たときに自分を苛む辛さである。

とにかく映画に浸ってきてほしい。
「人に優しくしましょう」「困ってる人は助けましょう」という四角四面な標語は教科書に並んでいても身につきにくいけど、面白い映画の中の彼ら彼女らからならすっと消化吸収できた。

旨い店があると人に勧めたくなる性格なので長くなりました。花粉症がつらくて散歩にいけません。ほいじゃ〜